きんま(蒟醤)の魅力
2012.02.25
蒟醤箱『山笑う』 第58回日本伝統工藝展 日本工芸会保持者賞受賞 山下義人作 日本工芸会掲載写真より転写
写真は 山下義人氏の、2011年日本伝統工藝展で日本工芸会保持者賞を受賞した蒟醤箱『山笑う』である。蒟醤とは、籃胎を素地とした漆器でビルマのマンダレーが発生と言われている。マレーシア、インド、ビルマなどの蒟醤胡椒に属する薬草が語源で、これらの地方ではビンロウシの実をマークと呼び、かむことをキンといっていたので、一緒に噛むことをキンマークといい、いつからか、その塗りものの容器を蒟醤と呼ぶようになった。最初は竹で編んだかごを容器に使っていたが、果汁や粉が落ちるので漆に固形物を混ぜて隙間を防ぐようになったとされている。
ビルマからこの技法はタイやベトナムに伝わり、日本には中国を経て、室町の中期ごろに伝わったとされている。蒟醤の技法は玉椿象谷の手によって研究が重ねられ、その後香川を代表する漆芸となって象谷の後継者たちによりその技が伝えられている。
その技法は、漆を塗り重ねて、鋭敏な剣(ケン)と称する特殊な刀で模様を線彫りし、色漆を埋めて乾かしたあと、炭研ぎをして余分な漆を取り去り、線彫りした模様の部分が上塗りの面と同面で色漆として現れるという、その精緻さ、手間、そして技術の高さから、漆塗りの最高技法とも呼ばれている。現在は香川県の讃岐独特の塗り方が知られており、香川県が伝統工芸品として産地指定を国から受けている。
山下義人氏は、蒟醤を代表する作家であり、写真の「山笑う」は高松市の自宅からみた山をモチーフに、季語の「山笑う」をタイトルとして、まず黒漆で塗り重ね、新緑に映える山の緑と光を色漆と銀粉を重ねて最後に研ぎだした精緻なしかし、山の春が描かれた素晴らしい作品である。
私は去年の伝統工芸展の会場に入ってこの作品を一目見たときから心惹かれた。けっして派手な作品ではない。もっと大きく、もっと派手な作品はいくらでもあるのに、なぜかこの緑の箱に吸い寄せられた。
今年の冬は寒くて春が待たれる。
山下先生のお宅を先週訪れたときも、本来ならもう梅が咲いているはずなのですがと先生はおっしゃったが、まだ梅は開花せず、椿が咲いていた。
でも先生の作品はこうした先生が丹精込めて育てられる庭の木々も含めて自然を描写することで生まれるのだと先生のお宅を訪問してよくわかった。
早く、山が笑ってほしいものである。