銀製ポットの秘密
2011.05.21
どんなに華麗な陶磁器のポットも銀のポットには勝てない。
ヨーロッパの陶磁器のポットの原型は銀器のポットにある。
多くの国が隣国と陸続きで国境を接するヨーロッパにおいて、長年、銀は、有事の際には溶かして武器や貨幣となりなによりの財産であった。
そして良質の蜜蝋ができるようになる18世紀まで、昼なお暗い城のあかりは匂いのきつい獣脂でまかなわれ、そのため正餐は主に昼に行わざるを得なかった。それでも冬の長いヨーロッパでは昼なお暗く、銀の食器はその光の反射により鏡同様あたりを明るく照らした。
その伝統を反映し、今でも銀製のポットはあらゆるポットの頂点に立つ。
その銀製のポットを選ぶ際の秘密はハンドルにある。上質のポットはかならずハンドルに一か所ないしは二か所、象牙でリングのような断熱がなされる。写真のポットは象牙が割れないように黒い皮でおおわれているがよく見ると象牙が下にまかれているのがわかる。
熱い紅茶またはコーヒーの入ったポットのハンドルを持つと当然のことながら熱伝導のよい銀製であれば、やけどをする。そのやけどを防ぐために、ポットの途中に象牙をまくことで熱を逃がすのだ。
もちろん、純銀かシルバープレートかというのは、購入の際の大事なポイントにはなるだろうが、アンティークのシルバーポットの場合、ハンドルに象牙の輪があれば、たいていの場合、そのポットは信頼に値いする。
残念ながら、現在では象牙を輸入してこのような細工を作るのはほとんど不可能となったので、これらはアンティークにしか見られない。だからこそ、大事に受け継いでいきたい。